地平線#2『タイピスト』
マレー・シスガルがニューヨークを舞台に描いた戯曲『タイピスト』。舞台はタイピング会社で働くシルヴィア・ペイトンと新入社員のポール・カニンガムが初めて会う日から始まる。自分の身の上話、会社への愚痴、家庭への不満、恋愛… タイピングという単純作業の合間に交わされる二人のめくるめく会話は人生そのものかのように劇的であったり、平凡であったり。
カタカタとなり続ける変わらぬタイプの音を尻目に時代はどんどんと移り変わる。20代だった彼らはいつしか60代半ばへ。二人の中で変わったことも変わらぬこともあるだろうが、お互いそれを口にしようとはしないでラストシーンを迎える。最後、ドアを開けて会社から出ていく二人の姿は20代の頃の二人のように凛とした佇まいで、しかし20代の頃とは違った貫録を持っていた。
100分間絶え間なくセリフが続く二人芝居で、かつ20代から60代までを演じるという難しい役どころを、二木咲子と峰﨑良介は丁寧で引き込まれる演技で軽々とこなしていた。壁につけられた電球の点滅が人生の陰と陽を表すようで儚い。随所で差し込まれるピアノの音が軽やかで胸がすく。中西良介の翻訳は現代にもなじむ形で物語に感情移入しやすい。
野坂弘の演出は空間を支配し、時の移ろいを過不足なく表現することに成功していた。それぞれのパーツがうまく組み合い、50年近く前の戯曲であっても普遍性を持った骨太な物語を立ち上げることに成功している、良質な上演であった。